セルフプロデュースで焦点が定まらなかった二作の反省を経て、グラム時代全盛期David BowieからかのProcol HarumそしてMahavishnu Orchestra等とアート系・ポピュラー系絡みと幅広い分野で実績のあるKen Scottを迎え 制作された大傑作3rd”Crime of the Century”にてプログレ/アート色を残しながらもバンド独自のポピュラー色を上手く打ち出した感がございます。
前作は再びKen Scottを迎えたものの創作期間があまりに短く”Crime of the Century”用に準備したものの不採用となった楽曲に新たなアレンジを施したものを中心に制作。 ”Crime of the Century”程ではないものの成功は収めますが、創作面がスケジュールの短さで制約され過ぎた事を反省。
名マスタリング・エンジニア”Greg Calbi”と”Jay Messina”による2002年度リマスターでございます。
CD音量許容範囲目一杯に音を詰め込んだという批判のあったリマスター仕様で幾分リミックス感がございますが、非常に良心的な音質でございます。
(当時かの”Rush”が新作のミキシングで目一杯音量を詰め込んだ事があり、賛否両論がございました。アナログ・マスターの迫力を生かす目的で(マスタリング作業ではございますが)そのやり方を参考にした感がございます
当時は”Loud War”と揶揄されたものでございますが、現在では情報量重視で音が平坦過ぎるとの批判がある現在から見ると非常に良心的な音質の感がございます。
但し、オーディオ機器によりけりでございますが.................................)
内容は言わずもがな。
ラインナップは全盛期。
Roger Hodgson(Vo、G、Key)、Rick Davis(Vo、Key、Synth)、John Anthony Heliwell(Horns、Synth、B-vo)、Dougie Thompson(B)、Bob Siebenberg(Ds、Per)となります。
1976年12月~1977年1月米国・コロラド州ネダーランド”Caribou Ranch”、ロサンゼルス”Record Plant Studios”での制作となります。
(前者はかのChicagoのプロデューサーJames Guercio経営のスタジオ。後者では付け加え録音とミキシング)
プロデュースはバンド自身。
エンジニアはPeter Henderson(後にかのRushの大傑作”Grace under Pressure”等手掛ける)他となります(←ここがミソ)。
またミキシングはかのGeoff Emerickとなります。
そもそもがRick DavisとRoger Hodgsonの邂逅から始まったバンド。
後にKing Crimsonの歌詞を(故John Wettonと共に)手掛けるRichard Palmer-James(G)等を迎えオランダ人富豪をタニマチとして支援を受け、英国初進出のかの”A&M”(かの名トランぺット奏者Herb Alpert運営のレーベル)と契約。
メンバー交代等紆余曲折を経て二作を制作しますが、鳴かず飛ばず。
オランダ人富豪も手を引き、バンドは創始者の二名を除き空中分解。解散の危機に立たされるものの新メンバーを迎え、再始動。
背水の陣で制作された大傑作”Crime of the Century”が大ヒットとなります。
プログレッシヴ・ロック・バンドとは言え元々ポピュラー感が強い音楽性を有していたこの”Supertramp”。
セルフプロデュースで焦点が定まらなかった二作の反省を経て、グラム時代全盛期David BowieからかのProcol HarumそしてMahavishnu Orchestra等とアート系・ポピュラー系絡みと幅広い分野で実績のあるKen Scottを迎え
制作された大傑作3rd”Crime of the Century”にてプログレ/アート色を残しながらもバンド独自のポピュラー色を上手く打ち出した感がございます。
ツインヴォーカルの陰陽という対比を上手く生かし起伏を付けつつ、大作主義志向の大仰さを生かしながらコンパクトに纏めた粒揃いの楽曲が揃うもの(Ken Scottの貢献の感)。
時代は1974年というプログレッシヴ・ロックのみならず大傑作・歴史的大作・名作が揃う時期のリリースではございますが、出色の出来。
1974年を境として大作主義に辟易した大衆がアンダーグラウンドで台頭しつつあったパンクに注目。こういったシーンが衰退していく中で大成功を収めていったこの”Supertramp”。
リリース後はかなりの高評価。セールス/チャートアクションも非常に好調。アメリカでも結構な成功を収め、全盛期そして世界的な大成功の大きな足掛かりとなった感がございます。
全米での好評に手応えを感じたバンドは作品制作を継続し成功を収めつつも、パンク/ニューウェイヴ台頭・全盛期と化しこの手の音楽性を時代遅れと見做す英国シーンに徐々に見切りをつけ、
今作制作時よりアメリカへと活動拠点を移行。
また作曲面もRoger Hodgson/Richard Davisの共作名義ではあるもののそれぞれ持ち寄った単独原曲に手を加え、更にバンドでアレンジを施すスタイルとなり、
(ジャンル問わずで各ミュージシャン/バンドが新しい音楽性を模索していた七十年代後半に)八十年代という新しい時代を睨み、音楽性もプログレ色を残しつつRoger Hodgsonを中心としてよりポピュラー化を強めていく事となります......
さて、今作。
前作は再びKen Scottを迎えたものの創作期間があまりに短く”Crime of the Century”用に準備したものの不採用となった楽曲に新たなアレンジを施したものを中心に制作。
”Crime of the Century”程ではないものの成功は収めますが、創作面がスケジュールの短さで制約され過ぎた事を反省。
今作では初期と同じセルフプロデュースとは言えKen Scottから学んだノウハウを応用し、満を持して制作に臨んだものとなります。
今作では制作エンジニアにPeter Hendersonを起用、音造りも正確さを生かした空間を生かした立体感のあるものでございます。
但し、プロデュース面にも関与した感があり、大ヒット次作の本格的起用に繋がる感がございます。
(創作面を含め時代性を意識しつつ)相当意欲的に制作に臨んだ模様でございます。
母国英国から米国へと活動拠点を移した事もありポピュラー化を進めたもので、英国特有の叙情性は残されているもののメジャー感が強められており陰鬱さは非常に薄いもの。
Supertramp特有のポピュラー感強いメロディアスさを強調し躍動感はあるものの大仰さは控えめ。
プログレ系のバンドらしい大作主義は見られるものの無理矢理な長尺感は見られず、非常に洗練されたコンパクト感が目立つものとなっております。
後にRoger Hodgson/Richard Davisの確執が取り沙汰されますが、今作制作ではあまりなかった模様。
制作時のアイデア相違によるミュージシャン特有の争いはあったものの確執という程ではなかった模様で、Roger Hodgson提唱のポピュラー化が上手くバンドに浸透していた感がございます。
但し、幾分バンドの音楽性が分離している感。
Roger Hodgson主導の(10ccやElectric Light Orchestraに繋がる)アート/ポピュラー面とRichard Davis主導の英国プログレッシヴ・ロック・バンドとしてのアート面が「陰陽」の如く無意識的に楽曲やパートで分けられた感があり、
それが後々の両者の確執を感じさせる感がございます........................
リリース後は結構なヒットを記録。大ヒット楽曲も生まれツアーも長尺化。後の大成功の直接の基礎となる感がございます。
今作のとりわけ米国で成功を収めた事が強い自信となった模様。バンドは貢献・献身度が高かったPeter Hendersonを共同プロデュースに抜擢。
運命の次作制作へと駒を進める事となります........................................................
今作はポピュラー色を強めた感のあるヒット作ではございますが、シングルヒット狙いのあざとさは案外ないもので作品指向の楽曲が揃うもの。
楽曲がかなり凝った作風で正直聴き手を選ぶ感のある音楽性でございます。
(六十年代後半~七十年代~八十年代中期にかけて)如何にこの時代の音楽ファンの音楽感性が豊かであったかが判る作品の一つでございます.......................................................................
現在では入手が困難。この機会に是非。
注: